Sometimes it snows in april 2016.4.28 あおやまおさむ

 今からずっと昔の6月、大きな国の小さな街に王子様が生まれました。王子様のお家は、決して豊かではありませんでした。それに、お父さんとお母さんは、あまり仲がよくなかったので、王子様は時々つらい思いをしました。

 王子様は音楽が大好きでした。黒い人が歌う音楽も、白い人が演奏する音楽も、女の人が歌う音楽も、男の人が演奏する音楽も、みんな大好きでした。音楽を聴いている時には、嫌な事を忘れることができたのです。

 王子様のお家には古いピアノがありました。王子様は、来る日も来る日もピアノの練習をしました。次はギターとドラムです。そして、沢山の楽器を誰よりも上手に弾けるようになりました。それは王子様が誰よりも練習したからでした。

 そのうち、王子様は自分でも音楽を作るようになりました。 ある時、王子様は街で演奏会を開きました。街のみんなは、すぐに王子様の音楽が大好きになりました。王子様は、みんなが喜んでくれる事が、何より嬉しかったのです。

 王子様の演奏会に来る人は、しだいに増えていきました。王子様は、街のみんなだけでなく、もっと沢山の、そして海の向こうの人達にも喜んでもらえるような、素晴らしい音楽を作りたいと思いました。

 王子様は、こんな風に考えていました。もしもみんなが大好きになれる音楽を作れたら、それを聴いたみんなが仲良くできるかもしれないと。だから、白い人も黒い人も色んな人も、男の人も女の人もそうでない人も、みんなが大好きになれる音楽を作ろうと、心に決めたのです。

 王子様は本当に沢山の音楽を作りました。もう自分でも数え切れないほどです。とても一人では歌いきれないので、仲間にあげたりもしました。だいたいは、生きていくこと、仲良くすること、そして誰かを好きになることを歌にしました。

 王子様は、どんな事でも、いとも簡単に歌にしてしまいます。例えば、朝ごはんについてもです。友達のルーシーやメイプルシロップの事だって歌う事ができたのです。時には、つらい事や悲しい事も歌にしました。王子様はいつも本当の気持ちを歌にしたかったのです。

 ある時、王子様は恋に落ちました。とても美しい人を、心の底から好きになったのです。その人のためなら死んでもいい、と思うほどでした。王子様は、多くを望んではいませんでした。一緒に楽しい時間を過ごし、そっと口づけしてくれるだけでよかったのです。でも、その恋はうまくいきませんでした。

 一度、本当に悲しい事がありました。王子様の赤ちゃんが亡くなったのです。生まれたばかりの可愛い男の子でした。王子様はとても悲しみました。でも、決して立ち止まる事なく、音楽を作り続けました。王子様にとっては音楽が全てだったのです。それが生きていくという事だったからです。

 その後も、王子様は休むことなく、みんなを楽しませました。王子様の音楽が聴きたいという人がいれば、どんなに遠くへでも飛んで行きました。その合間にも、新しい音楽を作り続けていました。まるで1日で世界一周してしまうほどの忙しさです。そして長い年月が流れました。

 王子様も時の流れには逆らえません。みんなの前では元気に見えましたが、やはり疲れる事もありました。それに本当は痛いところもあったのです。それでも王子様は休みませんでした。みんなが喜んでくれる事が、何より嬉しかったからです。

 でも、とても体の具合が悪くなり、王子様は少しだけ休む事にしました。また元気になれば、みんなを楽しませる事ができると思ったからです。そして、お家に帰る事にしました。王子様はお家が大好きだったのです。お家に帰れば、きっと元気になれると信じていたのです。

 4月のある朝、王子様はお家で動けなくなりました。そして、静かに目を閉じました。その時お家には、他には誰もいませんでした。王子様は、死んでしまうには若すぎました。それにやりたい事も、まだたくさんあったのです。でも、雪がとけて川になるのと同じで、これは神様が決めた事でした。

 あまりに突然だったので、みんなは驚きました。なかには色々と知りたがる人もいました。でも、街のおまわりさんは「王子様はみんなの大切な仲間だから、そっとしてあげよう」と言いました。みんなも賛成しました。そのおまわりさんは王子様と同い年で、王子様の音楽が大好きだったのです。

 街のみんなは、王子様の事が大好きでした。街のみんなだけではありません。ずっと遠くの人達も、みんな王子様が大好きでした。みんなは泣きました。王子様は、決して独りぼっちではなかったのです。これからもずっと、街のみんなと一緒です。

 王子様は、本当によく頑張りました。みんなが眠っている間も、ずっと音楽を作り続けました。みんなが仲良くできるように、そして皆が幸せになれるように願いながら。王子様は、誰よりも頑張りました。ちょっと頑張りすぎたのかもしれません。

rainbow 王子様は、静かに旅立ちました。でも心配はいりません。王子様は、本当に沢山の音楽を作っていて、まだ誰にも聞かせていない音楽を、お家に大切にしまっているのです。それも山ほどです。これからも王子様のパレードは続いていきます。そして世界中のみんなを楽しませることでしょう。

 王子様が天国に昇って行った日、青い空には、とても美しい虹が掛かっていました。

 

【あとがき】

 先日、米国の音楽家プリンス(Prince Rogers Nelson)が亡くなりました。あまりに突然の事で本当に驚きました。長年、彼の音楽を愛聴してきましたが、毎年のように届けられる彼のどの音楽作品よりも衝撃的なニュースでした。本当に言葉もありません。

 その後、インターネットに流される追悼記事などを眺めていました。なかには本当に心を打たれるものもありました。

 スティービー・ワンダーは、ニュース番組でインタビューに答えました。画面からも、彼が動揺している事は明らかで、まるで抜け殻のようでした。記者に振られても、「I’d breakdown if I did a song」と、涙を堪えるのが精一杯でした。

 ディアンジェロは、美しい名曲『Sometimes it snows in april』をカバーしました。曲の終盤、歌詞の一部を変えて「I often dream of Heaven and I know that Prince is there」と歌ったところで、声を詰まらせて歌えなくなりました。本当に胸が熱くなる瞬間でした。

 インターネット上には、プリンスが亡くなる直前の写真が掲載されています。それは彼が自転車に乗っている後ろ姿を捉えたものです。写真の中のプリンスは、偉大なる革命的ロックミュージシャンというよりも、あたかも母親にお遣いを頼まれた少年のようです。「ねえ、プリンス、スーパーで牛乳買ってきて!」と。

12976536_1016404018451396_2049329587_n しばらくこの写真を眺めていると、なぜだか子供に読み聞かせる絵本のように、彼について綴ってみようと思いました。そこで彼の名曲達を聴きながら、一通り仕上げてみると、自然と「こういう人だったのかな」と思える感じになりました。当のプリンス殿下は、最近、回顧録の執筆を始めたばかりだったと聞きましたが、果たして気に入ってくれるでしょうか。

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