天皇の終活 2016.8.12 青山修

 先日、天皇陛下がお言葉を出されました。皆さんはどのような感想をお持ちでしょうか。

 「個人として考えて来たこと」との前置きはあるにせよ、かなり突っ込んだ内容だと思いました。事前に『内閣の助言と承認』という名を借りた検閲があったのか定かではありませんが、陛下のお人柄や確固たる決意を十分に読み取る事ができるものだと思います。

 天皇という立場上、我々が想像できない数々の制約もあることでしょう。そうした中で、自ら考え、行動される姿勢には大変感銘を受けました。考える人は少なからずいますが、それを実現すべく行動に移せる人はごく僅かだと思います。

 伝統を継承しつつも、新しい時代の中で国民と共に生き、自らの職務を全身全霊で全うする。そして、妻と家族を心から愛し、永続的な繁栄と幸せを願う。お言葉では、こうした強い思いが分かりやすい表現で語られました。

 陛下のこうした姿勢は、『事業の繁栄と従業員の幸せを願う事業主』、または『愛する家族の繁栄と幸せを願う世帯主』の姿と重ねる事ができます。流行りの言葉で言い換えるならば、これは『天皇の終活』なのかもしれません。

 私は行政書士という仕事柄、数多くの遺言書作成や事業承継の場面に立ち会ってきました。我が身はさておき、残される家族や従業員の為に、熟慮を重ね、行動される方々には常に敬意を抱いてきました。今回の陛下のお言葉にも同じような感情を抱きました。

 現行憲法下、天皇には数々の制約があります。例えば、職業選択の自由はありません。象徴としては仕方ない面もあるでしょうが、一人の人間としては、そう簡単に割り切れる話でもありません。天皇は3年毎に勤め先を変える事などできません。気持ちが疲れたからと言ってしばらく休む事も、人間関係に嫌気がさして自分探しの旅に出る事も許されません。

 現在の天皇は大変お忙しいようです。皇居を訪れる人々との面会は年間270回以上、そして年間1000件を超える法律の公布等の公務、加えて、被災地や諸外国へ足を運ぶ事もしばしばです。ご自身で公務を増やして来られた面はあるにせよ、大変な仕事量です。

 ですから政府の皆さんには、陛下のご負担を増やす事だけは避けて頂きたいと思います。政治的に利用する事などは論外ですが、解散権を乱用したり、変わり映えのしない内閣改造を行ったり、すぐ辞任しそうな人を大臣にする事も控えて頂きたい。その度に、陛下が認証式に引っ張り出されるのですから。

 また、国民の声には真摯に耳を傾けて頂きたいと思います。勝手な解釈や、新しい判断ではなく、あらゆる局面において国民の理解が十分に得られるよう尽力頂きたい。もしも「国民は何も分かっていない。俺達に任せておけ。」というような考えが僅かでもあるようならば、全くの見当違いだと思います。

 とはいえ、一方的にお願いばかりするのはフェアーではありませんので、そろそろ纏めに入ります。

 陛下はお言葉を次のように結ばれ、国民一人一人に向けて問い掛けをされました。

「国民の理解を得られることを、切に願っています。」

 陛下とは異なり、我々国民には、憲法において個人の自由が保障されています。街角や居酒屋で大いに議論する事も、自分の考えをインターネット上に書き込む事も、官邸前でデモをする権利も認められています。しかも、ビデオ収録ではなく、完全ライブで行う事が可能です。

 おそらく大変な制約等があるにも関わらず、陛下は、国民一人一人に向けてメッセージを発せられました。次は、我々一人一人が自ら考え、議論し、行動する番です。賽は投げられたのです。

【ご参考】

◆宮内庁HP『象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば』http://www.kunaicho.go.jp/page/okotoba/detail/12#41

◆日本国憲法(第1条~第8条)
第1条  天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
第2条  皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範 の定めるところにより、これを継承する。
第3条  天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。
第4条  天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
2  天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。
第5条  皇室典範 の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。この場合には、前条第一項の規定を準用する。
第6条  天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
2  天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。
第7条  天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
1  憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
2  国会を召集すること。
3  衆議院を解散すること。
4  国会議員の総選挙の施行を公示すること。
5  国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
6  大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
7  栄典を授与すること。
8  批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
9  外国の大使及び公使を接受すること。
10  儀式を行ふこと。
第8条  皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、若しくは賜与することは、国会の議決に基かなければならない。

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